“伝統を受け継ぐ”というとなんとなく重たい心持ちになりますが、暮らしの中で人から人へ自然と繋いできたというものも少なくありません。
先人たちの祈りや願いや暮らしの中の工夫、そして楽しみがそこにはあります。
これからの時間の流れの中にも、それらが無理なく続き、人の営みに彩りを添えてくれたらと思います。
さて、ならわしについて、季節が一巡しましたので、今月から新たなことごとを綴ってゆきたいと思います。
毎月、その季節の旬、旬の食材の保存食とそのアレンジレシピを2回に分けてお届けする予定です。
これまで綴ってきました季節ごとの内容も織り交ぜながら、その時々の季節を感じ、暮らしの中に無理なく取り入れられるきっかけになれば、と思っています。
お楽しみいただけましたら幸いです。
9月 【和風月名 長月 】
まだ、暑さが残っていますが、朝晩の空気には秋を感じるようになってきます。
蝉の大合唱が鈴虫たちの音色に変わり、情緒漂う時間を愉しめる季節へと巡ってゆきます。
実りの秋に美味しい食べ物に舌鼓をうったり、お月見をしたり、五感で移ろう季節を感じたいですね。
<9月のならわし>
・9月1日:
二百十日(にひゃくとおか)~雑節
・9月9日:
重陽の節句(ちょうようのせっく)~五節句
・9月29日:
十五夜(じゅうごや)
・9月11日:
二百二十日(にひゃくはつか)~雑節
・9月27日:
秋の社日(しゃにち)~雑節
・秋分の日を中日とする7日間:
秋のお彼岸~雑節
・9月中旬~10月初旬頃:
秋の七草
※それぞれのならわしの詳細はこちらをご覧ください。
<旬の野菜>
秋茄子・里芋・薩摩芋・長芋・椎茸・舞茸・新米・じゃがいも
<旬の魚貝>
鮭・戻り鰹・秋鯖・秋鯵・秋刀魚・鰯・コノシロ
<旬の果物>
葡萄(大粒系)・梨・すだち・かぼす・ザクロ
<季節の草花>
秋の七草・秋桜・藤袴・露草・白粉花・芙蓉・彼岸花・あざみ・秋明菊・りんどう・風船葛
今月の旬の食材
『秋刀魚(さんま)』
秋にとれる魚で、形も色も刀に似ていることから、漢字では「秋刀魚」と表記されます。
販売時期は毎年9月〜10月のおよそ1ヶ月だけとなります。
漁獲される時期により、脂肪の含有量に差が出ます。
9〜10月に三陸沖から房州沖で漁獲されるものが、脂がのった最高品といわれているそうです。
ちなみに三陸では9月の走りは価格が倍程で取引されますが、水揚が安定する中旬には価格は半額程度まで下がってくるそうですよ。
鮮度や品質の見分け方は、
・背は青黒く、腹は白銀色でキラキラして、境界がくっきりしているもの ・身が固く、持ち上げたときにへたらないもの ・口の先と尾の付け根がほんのり黄色かオレンジ色
・目が濁っていないもの
などがあります。
秋刀魚は餌を食べてから排出するまでの時間が短いために、内臓にえぐみがなく、「はらわた」も美味しく食べられるのが特徴です。
塩焼きも、輪切りにして煮付ける時も、はらわたを出さずに使いましょう。
「さんまが出ると按摩が引っ込む」ということわざをご存知ですか?
“さんまを食べる時期には人々が健康になり、もみ療治の必要がなくなる“という例えになるほど、昔から栄養価が高い食材とされていたということですね。
季節の保存食
『秋刀魚のオイル煮』
今回ご紹介する季節の保存食は『秋刀魚のオイル煮』です。
オイルサーディンの秋刀魚バージョン。
旨みが凝縮された旬の秋刀魚は、秋の味覚の代表的な魚ですよね。
オリーブオイルやハーブとの相性がよく、これらでじっくりと煮るオイル煮は、一番美味しいこの時期の秋刀魚を、できるだけ長く味わうことができる保存食です。
そのままでもおかずやおつまみになりますが、お料理のアレンジもしやすいです。
にんにくやハーブのきいたオイルも重宝します。パンやパスタにからめても美味しいですよ。
【材料】約500ml容量の保存びん1本分
・秋刀魚:3尾
・粗塩:小さじ1
・酒:大さじ2
〈A〉オリーブオイル:150〜200ml(調整)
〈A〉米油またはサラダ油:150〜200ml(調整)
〈B〉にんにく(スライス):2かけ分
〈B〉ローリエ:2枚
〈B〉赤唐辛子(種取って小口切り):1本
〈B〉タイム(フレッシュ):5〜6本
〈B〉黒こしょう(ホール):5〜6粒
【つくり方】
① 秋刀魚は、頭と尾を落とし、内臓を取り除いて水洗いし、2〜3等分にブツ切りにします。キッチンペーパーなどで水気をおさえ、バットに並べて両面に塩をふり、ラップをかけて冷蔵庫で15分ほどおきます。
◎下味をつけると同時に、秋刀魚から余分な水分を出すことで保存性を高めます。
② キッチンペーパーなどでしっかり水気をおさえます。再度バットに並べて酒をまぶし、ラップをかけて冷蔵庫で15分ほどおきます。
◎酒が魚の臭いの原因となる成分と結びついて外に出し、臭みをとります。また、身をふっくらさせます。
③ キッチンペーパーなどでしっかり水気をふき取り、厚手のフライパン(または広口の鍋)に、〈A〉を入れ、秋刀魚を重ならないように並べて〈B〉を加えます。
秋刀魚全体が浸るくらいにオイルの量を調整してください。
◎オリーブオイルだけだと香りが強いので、クセや香りの少ない油とブレンドします。
④中火でゆっくりと加熱し、フツフツとしてきたら極弱火にし、アクが出たら取り除きながら、10〜15分オイル煮します。秋刀魚の中まで火が通ればOKです。
◎極弱火はオイルが沸騰しないくらいが目安。極弱火で煮ると秋刀魚がやわらかく仕上がります。
◎火を通しすぎると秋刀魚の身が固くなってしまいます。
⑤粗熱を取り、清潔な保存びんなどの容器にオイルごと入れて、冷蔵庫で保存します。
◎秋刀魚がオイルにしっかりと浸かっている状態にし、容器のフタをしっかりと閉めてください。秋刀魚が空気に触れた状態が続くと腐敗の原因になります。
〈食べ頃〉
すぐに召し上がれます。
〈保存〉
秋刀魚がオイルにしっかり浸かっている状態なら、冷蔵庫で2〜3週間ほどが保存の目安です。
〈応用メニュー〉
・そのまま前菜やおつまみとして。キリッと冷やした白ワインによく合います。
・パスタ、サラダ、マリネ、カナッペ、サンドイッチ、ドリア、チーズ焼き、香草パン粉焼きなど。
・きのこ、トマト、玉ねぎ、根菜類などと相性がいいので一緒に調理。
・オイルは、そのままパンにつけたり、パスタやソテーなどの料理の調味料とし活用できます。
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